言葉は羽根のように軽い
15年ほど前に、上海に進出し、100人ほどの現地の人を雇用して、金属
加工の工場を経営している社長がおられます。
「日中友好で、反日騒動があっても、私の工場は、うまくいっている」と良
く話されますが、ある程度、現地の事情に明るい人には本音の話をされます
工場を開設して5年間を過ぎるまでは、勤務態度や素行に問題のある工員も
多く、覚悟を決めて、何人かを解雇したところ、逆恨みされて殺されかけたこ
とがあると言われました。
3ヶ月の重症を負わされ、入院生活を余儀なくされました。採算が取れ、黒
字経営になると、今度は資本提携先の中国側からの乗っ取り工作に翻弄され、
それを乗り切ってから、現地に溶け込んだ企業にようやく、なれたと話されま
す。
とは言うものの、日本人に話しても、信じてもらえないことも多く、ついこ
の間でも、消防署職員が来て、パンフレット3枚を6千元(約9万円、現地の
人の3ヶ月分以上の給料に相当)で買えと強要してきたので、1枚くらいなら
買うのだがと判断に迷っていると、現地の従業員から、火事になっても、鎮火
してからしか消防車が来ないようにされると大変ですよという忠告を受け入れ
て、金を支払いましたが、腹立たしさで一杯だと。
今更、日本に帰りようがないというのが本音らしく、後悔しておられます。
何故、海外に工場を移したのかと聞きますと、社長は以下の理由を述べられ
ました。
1つは、当時はバブルの全盛で、人手不足で、俗に3kといわれる職場には
良い人材どころか、数の確保すら容易でなかったこと。2つめは、ある高名な
評論家の話を信じたためだと言われました。
「求人」で悩んでいた折、友人に誘われて、とある高名な評論家の講演を聞
きに参りました。その先生は、
「これからの日本は、恒常的に人手不足が続く。大手企業に追従して、労働力
が豊富で、賃金の安い国に進出するしか、中小企業の生き残る方法がない。さ
まざまな条件を考慮して、取捨選択すると中国しかない。」
と断言されました。
で、社長は時間を割いて、何度も上述の評論家の講演会に足を運び、後のパ
ーテーなどで、直接、話をし、彼の言葉を信じて、決断したのです。
結果は、ご存知のように、日本はバブルが崩壊し、「失われた10年」と称さ
れる不況と失業に見舞われました。
あの時1、2年我慢すれば、人余りの時代がきて、こんな苦労はしなくて済
んだのにと社長は悔いておられます。
「私は、まだ不幸中の幸いで、会社を維持できましたが、一緒に進出した人
のなかには、自己破産や、行方不明や、亡くなった方もいます。」
評論家の言葉を、信じたのが馬鹿なのですが、彼らは自分の言葉に責任を
感じないのでしょうか、良心の呵責はないのかと。
講演を、初めから漫談、講談の類として、聞く人ばかりではないのです。
自分で判断しろ、自己責任だということになるのでしょうが、あまりにも無責
任ではないのでしょうか。
同じことは、今も続いています。ある評論家は、最近まで、核戦争が起こる
と予測し、しかも期限をきって、講演していましたが、期日を過ぎると、嘘だ
と分かりますので、彼はマスコミから消えたみたいです。
これは古い話になりますが、ある新興宗教の教祖は、世の終わりが来ると布
教し、その指定した日が過ぎると割腹自殺を図ったことがありました。
上述のような内容の話だと、ある程度、距離をおいて接することができます
が、経済問題でも、政治問題でも、事実と反することを、分かりもしないこと
を、巧みな話術で真実のごとく、そうすることが正義であるかのごとく、聞く
ものを操つり、導くのです。
私たちは、評論家の説やマスコミの論旨を無批判に受け入れるのではなく、
ある程度疑問を持って、聞くことが必要でしょう。
評論家に限らず、テレビ、ラジオの番組も司会者も、意図的に事実を隠蔽し
て情報操作をしている可能性があると疑ってみる必要があります。無論、新聞
も同様で、特に政治記事について、いろいろな人が発言し、批判しているよう
に偏った見方の記事が多いのです。
「地獄の門に通ずる道は、人々の善意の花で敷き詰められ甘い香りで、満ち溢
れている」と格言があります。お互いに心したいと思います。